茶葉や急須を使ってお茶を味わう機会が減っている今、
日本茶の魅力再発見につながる「きっかけ」づくりを。
京都と奈良、産地は違えども、
そんな同じ志を持ってユニークなブランドを立ち上げた
おふたりが語ります。
“海外にも宇治茶の素晴らしさを 広めていきたいですね” 畑中 武|JA京都やましろ 茶業部加工販売課課長 |
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“大和茶をブランド化しつつ
中島 光|World Seed 副代表理事 |
危機感から始まったものづくり。 熱意と行動力で、周囲を動かした日々。 |
――まずはそれぞれの商品が誕生したきっかけや
いきさつについて教えていただけますか?
畑中 | 京都府南部地域は、宇治茶の主力生産地です。宇治茶といえば静岡茶と肩を並べる銘茶ですが、残念ながらリーフ茶の需要が落ち込んで価格が低迷し、後継者も不足しているのが現状です。なんとかその状況を打破したくて、最高級手摘み茶葉100%で淹れたお茶を、グラスに注ぐだけで飲めるボトルスタイルで提案しようと考えたんです。さらに宇治には碾茶(てんちゃ)といって、茶葉を揉まずに乾かした茶葉があり、香りのよさが特徴ですが、その存在はあまり知られていません。そこで、宇治の碾茶のおいしさを知ってもらいたいという思いから生まれたのが、今年6月に発売された「京都宇治碾茶 The Uji」です。 |
中島 | 1本5,500円という価格にまず驚きますね。2012年に発売した「と、わ」も、奈良の大和茶の認知度を上げたいという思いからスタートしています。製造メーカーさんや販売会社さんと手を組んで、私どもがブランディングやマーケティングを担当しました。宇治茶の知名度には負けますが、大和茶も1200年の歴史があり、しっかりした風味が楽しめるお茶です。びん入りで質の高い商品を提供することで、大和茶を広く知らしめたいと思ったんです。 |
――開発にはどれぐらいの時間がかかったんですか?
畑中 | 神奈川にロイヤルブルーティーという高級茶の瓶詰を作っている会社がありまして、そこに単身で交渉に乗り込んだのが4年前。最初は断られて、それでもあきらめきれずに連絡を取り続けているうちに、先方も碾茶に興味を持ってくれて、昨年やっと開発がスタートしました。3日間かけて水出しでじっくりお茶を抽出し、無添加でボトリングする特殊製法なので、量産はできないんです。 |
――上司の方からの指示ではなく、
畑中さんご自身の判断で飛び込まれたのですね。
畑中 | 生産者さんとは「いつかそんな高級品を作りたいね」っていう話はしていましたので、思い切って…。 |
中島 | 私たちもボトリングをお願いできるパートナーを探すのはひと苦労でした。「と、わ」には、大和茶のブランド力向上のほかに、もうひとつ「ガラスのリユースびんを使う」というミッションがあるんです。ガラスは缶やペットボトルと違い、土から結晶が変質してできたもので、3000年ぐらい前からある素材です。でも、ガラスびんを回収して繰り返し使うという、環境にやさしいシステムが、今では衰退しつつあります。このままではリユースのガラス容器自体がなくなってしまう、という危機感が、「と、わ」開発の背景にありました。
それで唯一、近畿圏で茶飲料の抽出と充填ができる酒造さんを探し当て、飛び込みで相談に行きまして。「そこまで言うならわかった、やろう」と言っていただけるまで、熱意で押し通した感じです。 |
古い常識の壁を打ち破り、 お茶という文化を語り継ぐ意志。 |
――いちばん苦労されたことはなんですか?
畑中 | 当初は「5,500円もするお茶を誰が買うんだ」という声が大半で、まず社内プレゼンで周囲を説得するのに苦労しましたね。でも生産者さんが味方になってくれたおかげで、徐々に周囲の理解も進みました。 |
中島 | 私が一番大変だったのは製造メーカーさんとの信頼関係をどう作るかという点です。モノを知らないゆえの熱意と行動力でやりたいことを押し通してしまえたというか…(笑)。その酒造さんはすでにウーロン茶を手がけられていましたが、緑茶は初めてとのことでかなり苦労されていましたね。酸化でお茶の色が変わりやすく、ほうじ茶みたいになってしまうので、抽出から充填までの時間調整には試行錯誤を繰り返されていました。あとはガラスびんの関係者さんだったり茶葉農家さんだったり、応援してくださってる関係者の存在が心の支えでしたね。 |
――販路開拓はどうされていますか?
畑中 | これまでの農協のマーケットとは違う、富裕層向けの戦略なので、常に手さぐりです。今は百貨店や高級ホテルにアプローチしているんです。海外からも引き合いがいくつかありますが、海外対応はこれからですね。飲まれたお客様からは、「香りのインパクトに驚いた」などのお声をいただいています。まだそんなに生産量が増やせない上に、保存期間が2ヶ月しか持たないので、販路開拓と生産のバランスをにらみながらやっています。ご贈答用のほかに、パーティやご宴会でのご利用ニーズを狙っていますね。たとえば今ですと、結婚式に招待されて、ほかの方と同じご祝儀を持参されても、お酒が飲めない方はオレンジジュースかウーロン茶ということになってしまう。そんな時、お酒と変わらないほど贅沢感の味わえる飲み物があるといいと思うんです。 |
中島 | なるほど、それはいいですね。「と、わ」は、奈良県内のホテル旅館や飲食店に置いていただいていますが、最初の営業活動は苦しい戦いでした。でも丸3年販売会社さんと頑張ってきたおかげで、好評をいただいて今では取扱い店が120店舗になっています。 |
――宣伝や広報はどんな工夫をされていますか?
畑中 | 発売時に京都府庁で記者会見を開いたんですが、12社のマスコミが取り上げてくださったおかげで、予想外の反響で注文が殺到し、生産が追いつかずご注文をお断りするほどで…。ちょうどお中元の時期だったこともありますが、とにかくこちらがびっくりするほどでした。 |
中島 | 「と、わ」の場合は、「循環」や「歴史の継承」のイメージを込めたネーミングが先に決まっていたので、それにふさわしいデザインを全国から公募し、コンペティションを行いました。それも認知拡大の一環として効果があると考えたんです。1次審査では審査員だけでなく市民の皆さんにも投票していただき、2次審査に残った5人の方々には、実際に奈良まで来ていただいてプレゼンをお願いしました。手間はかかりましたが、その価値はあったと思います。
それともうひとつ、行政の会議といえば、机にペットボトルが並んでいる光景がおなじみですが、それをガラスびんの「と、わ」に変えれば視覚的に効果があると考えて、自治体に働きかけを行いました。今は奈良市と生駒市の庁舎内では全面的に「と、わ」をお使いいただいています。 |
畑中 | 素晴らしい行動力ですね。確かにブランド作りには商品のデザインも大切ですから、「The Uji」もかなりこだわりました。ラベルは有名な書道家さんに手がけてもらったものなんです。百貨店では海外からのお客様がよく手に取ってくださるようで、うれしいですね。 |
――最後に今後の目標を教えていただけますか?
畑中 | 今後は1本10,000円と15,000円といったプレミアム商品も投入予定です。海外からの国賓やVIPをお迎えする行事で、公式飲料としてご利用いただけるぐらいになりたいですね。そんな活動を通じて、生産地を活気づけ、宇治の茶葉づくりを未来に継承していくことが私たちの願いです。 |
中島 | ホテルや旅館、飲食店に営業に伺って、「びん入りのお茶といえばウーロン茶」という現状を見るたび、少しでもびん入り緑茶にスイッチしていければと思いますね。「びんでもこんなにおいしいのなら、茶葉と急須で淹れたらもっとおいしいかも」と、若い世代にも感じてもらえるような、緑茶を楽しむ文化へのひとつの入り口となれたらうれしいです。 |
(2015年9月24日)